土曜の午後






ゆるゆると目を覚ました。
休みの日だから、目覚ましはかけなかった。
指先で携帯を探りあてて、時間を確認した。既に昼過ぎだった。
「寝過ぎやなぁ」
郷里の言葉で呟いても、当然返事はない。
布団の中でもぞもぞと動いて、伸びた。転がるようにして、ベッドから下りて、窓に向かった。
淀んだ温い空気を動かしたくて、窓を開けた。
春の匂いが飛び込んでくる。

芙美に会いたくなった。


目的地までの切符を買って、ホームに滑り込んできた各駅停車に乗った。
誰かが開け放した窓から春の風が流れ込んでくる。窓の向こうを流れる景色は、淡く彩られている。
冬を終わらせた街は、急に軽やかに明るく見える。
手の中の小さな切符をじっと見つめた。
とても当たり前なのだけど、この小さな紙片が芙美の住む街まで連れていってくれる。
それがとても嬉しくて、そんな事に気付いて感動している自分がくすぐったかった。


短いアナウンスの声を聞いて、芙美の住む町に降り立った。

小さな駅をくぐり抜けて、傾き始めた陽を浴びながら真っ直ぐに歩いた。小綺麗なアパートの二階の
チャイムを鳴らす。
「俺、」
短く言うとドアが開いた。黒い髪をふわりと下ろした芙美がにっこりと笑った。
「どうしたの?」
会いたくなったというのが気恥ずかしくて、玄関でスニーカーを脱ぎながら口を開いた。
「お腹空いた」
部屋に戻りかけていた芙美がぴたりと止まった。
「うちは学食じゃありません」
言いながら彼女は冷蔵庫の中をのぞき込んだ。
「お昼で使い切っちゃったんだよね。外で何か食べてくる?」
「やだ。作って、」
即答した石川に芙美が呆れ混じりの顔を向ける。けれど直ぐに笑った。
「じゃあ、買い物に行こうか。丁度お米も終わりそうだから、石川君が持ってね」
「いいよー」
脱いだばかりのスニーカーにまた足を突っ込んで、部屋を出た。

陽がすっかりと傾いている。
赤い、世界。
まぶしくて、目を細めた。
ちゃんと世界が見られない冬が終わって、春が来た。
いつまでも冬であるはずはないと分かっているのに、いつもいつも、冬は石川を不安定にさせる。

仕度を調えた芙美が出てきた。自然にその手を取って、夕陽の中を歩き出した。
小さな声で鼻歌を歌った。
芙美が小さく笑う。
「良いことあった?」
「ん? 別に?」
はぐらかして、大きく足を踏み出した。
赤い世界の端っこで、スニーカーが茜色に染まる。
「変なの、」
言葉の割に、どこか嬉しそうにいう芙美の顔を覗きこんで笑った。

会いたい人がいる。
すぐ傍にいることがどうしようもなく嬉しい。
そんな簡単なことにやっと気付いた、春の午後。





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© あさき
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