4:53am







固いテーブルの上で目を覚ました。
酷く、喉が渇いている。
状況を把握する前に、ほっそりとした白い手が見えた。
その事にびっくりして、身体を起こす。
不自然な、オレンジかかったファミレスの光。大きな窓から見える白みがかった世界。

「起きたのね。おはよう、」
困ったように島崎の目の前で笑ったのは、菊名だった。
「おはよう、ございます」
掠れた声で反射的に返事を返して、視線をテーブルの上に這わせると、島崎の目の前で 宮沢がつっぷして寝ていた。その横に、菊名が薄い珈琲の入ったカップを所在なさそうに 手で包みながら座っていた。

「俺に、挨拶は!」
声が直ぐ近くでして、びっくりする。横を見ると、中原が座っていた。
状況をやっと把握する。
昨日、珍しく山手線沿いでサークルで飲んで、終電がなくなって、そのままこのファミ レスに来たのだった。それだけはかろうじて覚えてる。

「水飲め、水。おっまえ、酒くさいなぁ」
中原が嫌そうに言った。眠っていないらしく目が充血している。
きっと菊名も眠っていない。

二人で、何を話しながら夜が明けていくのを待っていたのだろう。

すっかり氷の溶けた水を口に運びながら、携帯を取り出して時間を確認した。


午前五時、七分前。
夜が終わろうとする時間だ。


「ずっといたんスか?」
菊名に向かって、話かけた。
「だって、宮沢くんがいくら細くても、あたしじゃ運べないし、電車もないし」
菊名は小さく首をかしげた。細い髪がさらさらと肩で揺れる。
「石川と谷崎はさっさと嫁に引きずられて帰っとったけど、お前らはなぁ」
剣呑な声がする。
菊名が微かに眉を動かした。
けれど、何も言わない。肩が少しだけこわばっていた。
その姿を、酷く、窮屈で寒そうだと思った。
暖房は効きすぎるほど効いているのに。

二人は、どんな風にして、何を話しながら、夜が明けるのを待ったのだろう。

もぞもぞと宮沢が動いた。
「…うるせぇ、」
呟いた声はとても状況把握が出来ているとも思わなかった。中原が容赦なく宮沢の頭を叩いた。
「起きやがれ、」
「痛ってぇなっ」
掠れた声が飛び出す。ガバっと起きた額には、真っ赤な跡がついていた。
中原がそれを見て吹き出した。

宮沢はただでさえきつい目つきをさらにきつくして、前を睨んだ。ろくに前も見えていないのに 違いない。
中原はひとしきり笑うと時間を確認した。
「そろそろ山手動くやろ、行くか」
そう言って、彼はちらりと外を見た。白んでいく世界が、何ごともなかったかのように明けていく。

深夜料金をきっちりと取られて出た、冬の朝の空気は刺すように冷たい。
宮沢が痩身を震わせて、菊名が少し不安そうな顔をした。宮沢は小さな声で「平気」とだけ短く 答えている。
うっすらと白みがかっている世界を、誰が最初というわけではなくゆるゆると駅に向かって 移動を始める。

何も語らない菊名の細い肩を見る。
横をゆっくりと歩く、宮沢の薄すぎる肩を見る。
少しだけ早く、二人の先をふらふらと歩く中原の背を見る。


夜が終わろうとしている。

誰の、というわけではない。

けれど、確実に言えない言葉だけが、溜まっていく。




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© あさき
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